続・紙の絵本制作奮闘記 作れることになりました(汗)10

本日をもちまして犬の国のクラウドファンディング挑戦が終わりました。

さてノンフィクションを一席。

さかのぼること7年前。2015年5月末、私たちは東京のアトリエをひき払いました。

幸い、作家と画家の仕事はネット環境さえ整っていれば場所を選びません。

移転先は、静岡の山奥の熱海に近い別荘地

他界した田中の父が使っていた家です。

使わないものを捨て、3日で、仕事ができるスペースが作れました。

次に木が伸び、荒れ放題の庭を、毎日3時間、1週間かけて片付けました。

すると、ほっこり日当たりの良い庭になりました。

花壇を作るスペースもでき、ふたりで話し合い、夏野菜やハーブを育てようということに

松井のたっての希望で、角のデコポンの木の下に竈門(かまど)もつくることに

ところが庭づくりを始める初日。

田中が竈門の場所にハーブを植えたい!と、わがままを言い出しました。

朝日がこんもり差し込むその場所を見ていたら、どうしても植物を植えたくなったのです。

普段、あまり主張がない田中が珍しくゆずりません。

松井は諦めて、竈門を予定していた土地を、しぶしぶ耕しはじめました。

田中は背中あわせに、上機嫌で雑草をむしっておりました。

松井の鍬が黒々とした地面に突き刺さるたび、ドスン!ドスン!と、地面が唸ります。

ひときわ大きな音が、ドスンッ!と響いたときでした。

「ひょっわぁああああ〜〜〜〜〜〜!!!」

松井が奇声をあげました。

うつろな目で地面を睨みつけ、呆然と立ち尽くしています。

「ど、どうした?」と、田中。

「ほ、ほねが出てきたぁぁぁ…」

「ほねって…?ほ、骨ぇぇぇ〜〜〜〜!?」

握りしめていた雑草を放り投げ、そこを見ました。

ふんわりと掘り起こされた土の上に…こげ茶の骨が、ごろりと転がっていたのです。

マンガなどに登場する定番の形の、明らかな骨でした。

朽ちた土嚢袋と思われるものの片鱗も地面からのぞいていました。

あきらかに、中に、なにかが入っています。

「ど、どうしよっか」

後ずさりする田中。

「と、とりあえず管理センターに連絡しよう!」

家に駆け込んだ松井は、壁に貼ってある別荘地の管理センターの番号に電話をかけました。

「すみません、庭を掘って耕していたら骨が出てきたんですけど」

すると先方も驚いた様子で、しどろもどろなお返事。

「ほ、ほねですか?えっと、それはこちらでは手に負えません。警察に連絡してくださったほうが

当然ですよね、骨ですもん。

でも警察って…

でも、そうする以外、ないです。

あの太い骨と、チラッと見えている泥まみれの土嚢袋。

見て見ぬふりができるほど肝が据わっていません。

ふううぅぅ〜〜っと深呼吸をして、松井は人生初の110番をプッシュしたのでした。

事情を説明すると「すぐ向かいます」という頼もしい警察官のお返事。

加えて、念を押されました。

「このあと現場には、いっさい触れないでください」と。

わずか数分後、パトカーに乗った警察官が現れました。

純朴そうな警察官は、車から降りるや無線で本部に到着の報告。

すると無線機の向こうから「了解しました」の声。

お互いに簡単な挨拶を済ませると

「では、現状を確認させていただきます」と、警察官。

「こちらです」

松井が先立って、庭へ続く階段を上りはじめたとき。

警察官の制服に取り付けられた警察無線から、警察官同士のやりとりが漏れ聞こえてきました。

「え〜、さきほどの熱海人骨事件、ただいま現場に3名、向かっております」

なぬ?

熱海人骨事件って、うちのこと?

ぶっそうなタイトルがついちゃってますけど、もしかして、静岡県警で大ごとになっている?

無線の情報どおり、その後、3名の警官が到着。

「鑑識も来ますので」

は?…か、かんしき?

その後、わらわらと警察関係者が集結。

総勢10人を超す屈強そうな警官たちで、庭は濃紺に染まりました。

松井と田中は一旦、庭から立ち退きを命じられ測量や現場撮影が始まりました。

同時に「すみません、ちょっとお話を」と、それぞれ別の警察官に呼ばれました。

名前、生年月日、職業、家族構成。

プライベートなことまで根掘り葉掘りの質問攻め。

これってもしかして事情聴取?

いや、尋問か?

新たに車が停車し、私服姿の男性が降りてきました。

多分、刑事です。

庭から太い声がしました。

「ちょっと検死官!いいですか?」

け、けんしかん?

これって、完全に事件じゃん!

気がつくと遠巻きにギャラリーも集まっています。

引っ越してきたばかりの新参者に、容疑者を見るような冷ややかな視線が刺さる…。

火曜サスペンス劇場の事件現場を想像してください。

それです!

警察官の尋問から解放された我々は、庭を見渡せるデッキから、地面を掘り起こす男たちの大きな背中を固唾をのんで見守っていました。

尋問(?)のとき得た情報によりますと、松井が掘り起こした骨は

大人には小さすぎるので幼児のものではないかと、推測されます、だって。

えええ〜〜〜っ!!人骨なのぉ!?

ということは私たちは犯人を疑われて、ますよね。

目の部分に黒い線が入った私たちの写真が頭をよぎりました。

いやいや、犯人は黒い線が入らないぞ。

いやいやいや、私たち犯人じゃありませんから、無実ですから。

しかし冤罪ということも無くはない。

身に覚えはないけど疑われてしまうんじゃないかとオロオロする田中に、警察官がおいでおいでをしました。

「すみません!写真を撮りたいのでこちらへ来てもらえますか?」

指示に従い、骨が出てきた現場に立たされ

「この穴の部分を指さしてもらえますか」と。

「こ、こうですか?」

「はい、そのまま。写真を撮ります」

カシャ、カシャ、カシャ…と連続するシャッター音。

その穴を見ると、掘り出されたのでしょう。

骨の数が増えてます。

ちょっとだけ見えていた土嚢袋もほとんど姿を現していましたが

「すみません、こいつがなかなか引っ張り出せなくて」と、際立って大柄な警察官。

「この土嚢袋は、随分長くここにあったようで木の根っこが覆いかぶさって絡まってるんですよ」

というのです。

記念撮影が終わった田中は、またウッドデッキに戻ろうとしました。

すると背中越しに警察官が声を張り上げました。

「すみませ〜ん!植木が元気なくなっちゃうかもしれませんが、根っこ、少し切ってもいいですか?」

「どうぞ〜〜〜!」と、田中は元気よくお返事。

ちょっとでも印象を良くしたかったからです。

気が優しくて力持ちな警察官たちは出来るだけダメージがないように、木の根を少しだけ切ってあとは力づくで、泥まみれの土嚢袋を地中から引き出したのでした。

予想どおり…土嚢袋の中は大量の骨が入っていました。

庭にブルーシートが広げられました。

検死官と呼ばれていた人が、その上に骨をひとつずつ並べ始めました。

生前、それがあった場所へ、次々と置かれていき、遠目で脊椎の形がわかりました。

リアルに、現場です。

土嚢袋を覗きこみ検死官が首をかしげます。

我々は、デッキから、静かに耳をそば立てていました。

すると、検死官のつぶやきが聞こえました。

「頭部がないな…」

ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい〜〜〜〜。

背筋が凍りつきました。

「まだ、土の中に埋まってるかな?」

手を休めていた警察官たちが再び、地面を掘り起こし始めました。

かたわらで検死官は土嚢袋から取り出した骨を、黙々とビニールシートに並べていきました。

突然、検死官の動きが止まりました。

立ち上がって、持っていたものの泥を払いのけ、空にかざしています。

首を捻って、ひとこと。

「こりゃあ…骨じゃないな」

骨じゃないなら…なんですか??

地面を掘っていた警察官たちもそれを覗き込みます。

誰かが言いました。

「首輪じゃないスカ?」

…ということは?

その後、検視官からきちんと説明がありました。

「獣骨みたいですね。はっきりと断言はできませんが、多分、犬ではないかと」

骨の形も質も、人骨の可能性は考えられないので事件性はありません、とのことでした。

ホッとして気持ちに余裕ができた私たちは

「最初、そこに竈門を作る予定で、掘り起こす予定はなかったんです」と、検視官に話しました。

するとそばにいた強面の刑事さんと思われる方が、ニヤッとしてこう言いました。

「もしここに竈門を作っていたら骨はピンク色になっていたかも知れませんね。

火葬された骨は、ピンクに変色するんですよ。出てきた骨は白いままでしたけど」

警察あるあるですね。

ということで、一件落着。

大勢の警察官は掘り起こした土を元通りに戻し、手際よく現場を片付けました。

そして我々に向かって小慣れた敬礼をして、それぞれ5台のパトカーに乗り込み、清々しい初夏の風を背負って夕暮れの道を帰っていきました。

後日、警察から電話で、報告をいただきました。

持ち帰った骨は、翌日、動物病院に持ち込み、専門家に見てもらい、中型犬の骨と断定されたそうです。

庭から骨が見つかった経緯については

「多分、別荘地の造成中に誰かが埋めたんでしょう。造成中は土が柔らかくて埋めやすかったと思いますので」

という見解でした。

いろいろ疑問は残ります。

けれど、この場所が、いずれ犬の国ピタワンの人間の国支店になるということを知ってか知らずか…不思議な縁を感じる事件でした。

でもあの朝、田中がごねなければ、見つからなかったかも知れません。

見つけて欲しかったのかな?

熱海人骨事件じゃなくて、ここ掘れワンワン事件ですよね。

そこは今、お花畑になっています。

このたびのクラウドファンディングは

たくさんの人と、その家族であるたくさんの犬たちが、応援してくれたと思っています。

もしかしたらその中に、あのときの骨の主も、いてくれたのかも知れません。

松井の目の横をひらひら動いているものの正体も、もしかしたら。

またしてもスピリチュアルな方向に話が傾いてしまいそうなので、この話はここまでに。

本日、3月31日11時59分59秒をもちまして、犬の国の初めてのクラウドファンディング

「電子書籍「ある日犬の国から手紙が来て・バンボと仲間たち」の『紙版』を出版したい」

は、最高のエンディングを迎えることができました。

アクシデントで始まってしまったプロジェクトに迷わず手を差し伸べてくださった皆さま、あのとき私たちの心が折れずにいられたのは、貴方たちのおかげです。

中盤で、伸び悩んでいたときも、誰かしら、ご支援をしてくださいました。

まさかで設定した200万支援を達成できたのも、ここぞとばかり支援をしてくださった方たちのおかげです。

トイマンファミリーの皆さんがどんどんと支援の輪を広げてくださったおかげです。

松井が描いた絵をインスタグラムで、より多くの方に拡散してくださった皆さまのおかげです。

このプロジェクトで初めて知って、ご支援してくださった皆さまもありがとうございました。

最後の日も、たくさんの方が、もう一押しのご支援をしてくださいました。

嬉しい応援メッセージも、たくさんたくさんいただきました。

本来であれば、おひとりおひとりの名前を出してお礼を申し上げたいところですがプライバシーもありますので控えさせていただきます。

しかし、今回、ご支援してくださった皆さまをあえてこう呼ばせてください。

仲間たち、と。

すみません、もう、書いていて泣きそうです。

年寄りなので涙腺が弱くて。

改めてもう一度。

ご支援してくださった仲間たち、応援してくださった仲間たち、励ましてくださった仲間たち。

すべての仲間たちの優しさに心より感謝を申し上げます。

税実ちゃん
税実ちゃん

ありがとうございましたマネー

コメント

  1. レアパパ より:

    長きに渡るクラウドファンディングお疲れ様でした!
    最後の追い込みも素晴らしかったですね、犬の国を愛する人達がいっぱいいるってことですね、我々は後は待つだけ、犬の国支店はこれからが本番です、体調管理しっかり頑張って下さい。素晴らしい紙版が出来上がる事を首を長くして待ってます。

    それよりも、税実ちゃんの中身は誰だったんでしょう? そっちのほうが気になりますねぇ?

    • marco marco より:

      レアパパさん、大変、お世話になりました!
      今日からまた新たに良い絵本を作るプロジェクトへ挑戦が始まります。
      応援してください。

      税実ちゃんの正体は犬の国で泥棒して捕まった怪盗アリーナちゃんです。罰の代わりに働いています。
      悪いことをした子は税実ちゃんになってしまうかも知れません。

  2. ええ〜っ 中の人、もといわんちゃんはすっごく可愛いんですけどお。
    なんか着ぐるみきて稼がないといけない事情があったのでしょうか。
    すごく知りたい。何にしても幸せが訪れますように。

  3. marco marco より:

    レアパパさんのお返事に書きましたが、そういう事情です。
    ダニエルくんは大丈夫だと思いますよ。

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